【映画】


昭和50年3月15日(土)公開


吶喊(とっかん)





喜八プロダクション=ATG製作ATG配給
上映時間93分カラー作品 スタンダード
監 督脚 本岡本喜八


【出演】

伊藤敏孝(千太)高橋悦史(細谷十太夫)伊佐山ひろ子(お糸)岡田裕介(万次郎)田中邦衛(山川大蔵)
小野寺昭(松田精造)千波恵美子(テル)丹波義隆(市)岸田森(仙田勇之進)大木正司(瀬尾斗介)
天本英世(与作)今福正雄(太平)岩崎智江(千太の母親)堺左千夫(二枚橋ノ和助)長谷川弘(桜井ノ百蔵)
村松克己(世良修蔵)樋浦勉(勝見善太郎)伊吹新(掛田ノ善兵衛)小川安三(桑折ノ和三郎)山本廉
粕谷正治(紋次)藤田漸(弥太)北見治一草川直也島もとき
石田徹木村博人(板垣退助)南ゆき田頭信幸田中一
柿木恵至佐藤明彦金子太郎久須美譲尾形充洗
伊奈貫太高橋義治大島光幸甲斐武斉藤勝信
東静子記平佳枝川口節子坂本九(語りの老婆)仲代達矢(土方歳三)
中谷一郎(ナレーター)    


【物語】

百年ほど前、奥州安達ヶ原に、貧乏で嫁がもらえない百姓千太(伊藤敏孝)がいた。
なんとしても嫁が欲しい千太は、ちょうどその時起こっていた官軍と幕府軍の戦いに自ら飛び込んで行く。
奥州鎮撫総督世良修蔵(村松克己)暗殺の日、千太はテル(千波恵美子)という奴に筆おろしをしてもらう事に成功。
そして、官軍密偵見習いの万次郎(岡田裕介)から巻き上げた金で、テルを身請けしてしまう。
その頃、敗走している奥州列藩の状況に怒りを抱いた仙台藩士十太夫(高橋悦史)は、
博徒や百姓を集め、カラス組というゲリラ部隊を組織、千太も参加する事になる。
カラス組は、弱い奥州列藩の中では、官軍に最も恐れられたが、増援はなく孤立無援の戦いが続いた。
奥州の要、二本松城が落城すると、仙台藩はあっさりと戦いを放棄してしまう。
そうとは知らないカラス組には無謀な命令が下された。
そのために、多数の犠牲者が出てしまい、怒り狂った千太は、命令を下した参謀・瀬尾(大木正司)を暗殺した…



【解説】

戊辰戦争の終わり頃、奥州列藩と官軍との戦いの中で青春を爆発させる、百姓の千太(伊藤敏孝)を主人公にした喜劇映画。
ATGと喜八プロダクションの共同出資による「一千万円映画」の一本。
実際には千六百万円ほどかかったが、非常にタイトな撮影現場だったという。
撮影の正味はたったの20日、セットは新たに組むことが出来ずに、
三船プロダクションのオープンセットで、空いている時間にゲリラ的に撮影して間に合わせた。
主役の伊藤敏孝は、前年に公開された同じ岡本喜八監督作品
『青葉繁れる』(昭和491974 年)で演じた学生役が認められての出演。
ほかにも岡本喜八映画の常連が、顔見世的に何人も登場している。
作品のプロデューサーは、万次郎役で出演もしている岡田裕介が担当した。
この作品が、初プロデューサー作品となる。
ちなみに「吶喊」とは、突撃の時に上げる鬨(とき)の声の意味。



【岸田森の役】

仙田勇之進

仙台藩の参謀。
官僚的な態度で、仙台藩の戦いの指揮をとる。
だが、その指揮は官僚的で現実に即さず、仙台藩は敗走に敗走を重ねて、二条城が落城するとあっさりと恭順してしまう。
登場シーンは全部で五シーンあるが、余り長いシーンではない。
ゆったり優しく喋る独特の役づくりで、官僚の嫌らしさを表現している。



関連作品

斬る  (昭和43年1968
赤毛  (昭和44年1969
座頭市と用心棒 (昭和45年1970
激動の昭和史 沖縄決戦 (昭和46年1971
にっぽん三銃士 おさらば東京の巻 (昭和47年1972
青葉繁れる (昭和49年1974
金曜スペシャル「時効まで後26日!実録・三億円事件」 (昭和50年1975
姿三四郎  (昭和52年1977
ダイナマイトどんどん  (昭和53年1978
ブルークリスマス  (昭和53年1978
英霊たちの応援歌  (昭和54年1979
時代劇スペシャル 「着ながし奉行」  (昭和56年1981
近頃 なぜか チャールストン  (昭和56年1981







昭和50年4月5日(土)公開


櫛の火

東京映画製作東宝配給
上映時間88分カラー作品 ワイド
監 督神代辰巳原 作吉井由吉脚 本大野靖子神代辰巳


【出演】

草刈正雄(広部)ジャネット八田(柾子)桃井かおり(弥須子)高橋洋子(あけみ)河原崎長一郎(矢沢)
岸田森(田部)名古屋章(松岡)芹明香 (看護婦)小川順子(良子)鷲尾真知子
大場健二 (あけみの男)武士真大磯部勉若尾哲平石矢博
花房徹斉藤貞三細井利雄佐々木久男歌川千恵(飲み屋の女)


【物語】

広部(草刈正雄)は、一本の櫛に呪縛されていた。
その櫛の持ち主だった弥須子(桃井かおり)は、学生運動の同士で半年前病死していた。
ある日、広部は偶然に柾子(ジャネット八田)と出会う。
その時は形式的な紹介だけだったが、惹かれるものを感じ、二人は情事を重ねるようになった。
柾子と夫の矢沢(河原崎長一郎)は別居中だった。
だが、矢沢の同棲相手あけみ(高橋洋子)の、あまりの嫉妬深さに我慢出来ずに、矢沢は柾子の家に突然戻ってくる。
数日後、柾子は矢沢に強引に迫られた。
そのあまりの迫力に恐れをなした柾子は、広部のアパートに転げ込む。



【解説】

学生運動の終焉期に、恋人を病で失い深い喪失感に陥った青年が、
ふと巡り会った年上の人妻との交際により、再び生への現実感を取り戻す、吉井由吉の同名小説の映画化作品。
主役に草刈正雄。
ヒロインに
『あさき夢みし』(昭和491974 年)の主役で一躍脚光を浴びたジャネット八田。
大胆なベットシーンが当時、話題となった。
原作が映画化するには長篇だったために、ほとんどダイジェストのような作品に仕上がっている。
しかも『櫛の火』と同時に公開された萩原健一主演『雨のアムステルダム Two in the Amsterdam Rain』(蔵原惟繕監督)が メインの公開作品として製作され、
単独公開でもおかしくない123分という長さで製作されている。。
そのためにあおりを喰った『櫛の火』は、上映時間88分と、完成作品から20分近くもカットされて再構成された。
加えて、神代監督特有の観念的な演出もあって、残念ながら非常に解釈の難しい作品として仕上がっている。
そのような状況だったので、物語は、男女の逢瀬のシーンに集約されるような構成となっている。
登場人物たちが囁き声で微妙で繊細な心境を話し、かなりリアルな雰囲気で物語が進んでゆくのが特徴。
日活ロマンポルノでの活躍が注目された神代辰巳監督が、東京映画に呼ばれて製作した作品。



【岸田森の役】

田部

柾子(ジャネット八田)の夫、矢沢(河原崎長一郎)の友人。
離婚するという二人の立会人になっている。
しかし、一度は別居していた夫、矢沢が突然家に戻ってきて動揺した柾子と、酔って関係を持ってしまう。
結局は、相談に来た柾子の役にたたなかった。
岸田森の登場シーンは短いが、どのシーンでも非常に凝った芝居を見せていて楽しい仕上がりだ。
監督の神代辰巳とは、テレビシリーズ『傷だらけの天使』(昭和49年1974)で出会った。
この映画は、時期的に見て番組終了後、あまり間を置かずに撮影されたと思われる。



関連作品

神代辰巳監督

傷だらけの天使 全26話(昭和49年1974
『黒薔薇昇天』  (昭和50年1975








昭和50年8月9日(土)公開


黒薔薇昇天

日活製作日活配給
上映時間72分カラー作品 ワイド
監 督神代辰巳原 作藤本義一脚 本神代辰巳


【出演】

谷ナオミ(幾代)岸田森(十三)芹明香(メイ子)山谷初男(歯医者)高橋明(安さん)
東てる美(十七、八歳の少女)谷本一(一)庄司三郎(石やん)森みどり牧嗣人(大垣彦市)


【物語】

ブルーフィルム撮影隊の監督、十三(岸田森)は、
撮影に行った先で女優メイ子(芹明香)に妊娠を告げられ、役を降りられてしまう。
仕方なくロケを切り上げて大阪へと戻った十三は、副業のエロテープの録音に精を出す。
といっても、テープの中身は、動物園のアシカの鳴き声や、相撲力士の荒い息遣いとかをうまく編集したものだった。
だが、歯医者の診察室に、患者治療中のあえぎ声を録音しようと仕掛けておいたテープレコーダーに、
美人と歯科医のなまめかしい声が録音されていた。
早速十三は、探偵社のものだと偽って、その女、幾代(谷ナオミ)に接近した。
そして、証拠のテープが自宅にあると騙して連れ込み、押し倒してしまう。
幾代の反応は激しく、十三に自ら絡みつく。
その時、隣の部屋に隠れていた撮影隊が、二人の営みを撮影しだした…



【解説】

珍しい岸田森主演映画。
『傷だらけの天使』(昭和491974 年)『櫛の火』(昭和501975 年)に続く神代辰巳監督とのコンビ作品。
日活でデビューして、この当時東宝で活躍していた神代監督が、久しぶりに古巣日活に戻って監督したロマンポルノ作品。
法の網を潜り抜けながら、ブルーフィルム作りに涙ぐましい努力を払う男たち哀愁を描く。
原作は藤本義一の「浪花色事師=ブルータス・ぶるーたす」
撮影期間は短かったが、心斎橋や天王寺動物園など大阪でもロケされている力作。
ヒロインの谷ナオミは、当時SMの女王として知られており、今までにないコミカルな芝居を見せている。
そのために、ビデオは「SMベストコレクション」というラインナップで発売されていた。
無論、そのようなシーンは無い。
岸田森の熱演もあって、異様な熱意に包まれた作品となっている。



【岸田森の役】

十三

怪しげなブルーフィルムの監督。
本人は芸術映画を撮影していると言ってはがからない。
だが、副業に怪しげなエロテープも作っている。
非常に精力的で、映画のためならば、涙ぐましいまでに努力を惜しまない。
新しい女優として目をつけた幾代(谷ナオミ)を、自らが寝取り、撮影の仲間に引き入れてしまうほどである。
岸田森は、関西弁でまくし立てる全身汗だくの熱演を披露し、主役という大役を見事に果たした。
ヒロインの谷ナオミと、10分以上にもわたるわたる激しいファックシーンがクライマックスの一つとなっている。
途中、十三が数シーン足を引きずるシーンがあるが、
これは神代辰巳監督が尊敬していた映画監督川島雄三へのオマージュではないかと言われている。
『幕末太陽傳』(昭和321957 年)などで有名な川島監督は、
遺伝性筋萎縮障害で、映画の十三のように時々足を引きずりながら歩いていたということだ。



関連作品

神代辰巳監督

傷だらけの天使 全26話(昭和49年1974
『櫛の火』   (昭和50年1975







昭和50年11月1日(土)公開


はつ恋

東宝映画製作東宝配給
上映時間86分カラー作品 シネマスコープ
監 督小谷承靖原 作I.S.ツルゲーネフ脚 本重森孝子


【出演】

仁科明子(松宮るお)井上純一(由木原一彦)南風洋子(由木原雅代)根岸明美(松宮道子)内田勝正(阿川)
富川K夫(沢田)岸田森(木村)原ひさ子(由木原きく)笠井うらら(はつ)塩崎三樹男(守)
中村健介(松宮昌夫)勝部義夫広瀬正一加藤茂雄夏木順平
石井宏明ジャクソン・スミス二谷英明(由木原直彦)  


【物語】

十六歳の由木原一彦(井上純一)は、海に近い田舎にある邸宅で、受験勉強に取り組んでいた。
ある日、由木原家の隣に、画家の一家が引っ越してくる。
その家の娘るお(仁科明子)は、いつも取り巻きがまとわりつき、まるで女王のごとく振舞っていた。
そんなるおと、偶然海辺で出会ってしまった一彦は、一目ぼれしてしまう。
取り巻き達の時とは違って、るおは一彦に優しかった。
だが、気まぐれに冷淡になるときもある。
一彦は、秘密の儀式を受けて、るおに仲間として認められ、二人は頻繁に会うようになる。
ある夜、るおの家を見張っていると、一彦の父直彦(二谷英明)があらわれた。
しかも、二人は知り合いなだけではなく、ただならぬ関係だった。
一彦はショックを受ける。
数日後、由木原家に、るおと直彦の事を告発した手紙が届く。
両親は離婚まで考えたが、遠く東京に引っ越す事で騒ぎは収まった。
それからしばらくの間、東京での暮らしは平穏だった。
しかし、一彦は、父がるおと会っているのを見てしまう。



【解説】

十六歳の少年が、誇り高く傲慢で、情熱的な年上の女性に初めて愛を捧げる。
しかし彼女は、尊敬していた父親の愛人だったという、十九世紀ロシアの文豪ツルゲーネフの自伝的小説の翻案映画化。
原作に描かれているナイーブな少年心理を、ヨーロッパ映画風のタッチで、小谷承靖監督は繊細に描き出している。
主役にJOHNNY'Sジュニア・スペシャルに所属していた事もある、歌手でもあり若手俳優の井上純一を起用、
さわやかさを活かしたキャラクターを作り上げた。



【岸田森の役】

木村

ヒロインるお(仁科明子)の取り巻きの一人で画商。
るおといる時は、ともかくはしゃぐ楽しい役作り。
嬉しそうにるおの引越しを手伝い、ビールをラッパ飲み、
最後にはるおに頭からビールを浴びせられるのが登場シーンだ。
人間競馬をしたり、海辺でタンゴを踊っていたりと、登場シーンは全体的にかなり不思議な仕上がり。
丸いサングラスに和服姿といういでたちで、いつもニヤニヤして頼りないように見える。
しかし意外に切れ者で、周囲を良く見ていて、
暗に、直彦(二谷英明)とるおの関係を、一彦(井上純一)に忠告したりする。



関連作品

小谷承靖監督

愛の嵐の中で(昭和53年1978
ホワイト・ラブ WHITE LOVE(昭和54年1979








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